電子帳簿保存法、中小企業が今すぐやるべき対応策

電子帳簿保存法 経理・財務DX
この記事は約16分で読めます。

【中小企業向け】電子帳簿保存法への対応方法と選ぶべきツールを実務目線で解説

「電子帳簿保存法に対応しなければいけないとは聞いたけれど、結局、何をすればいいのか分からない」

このように感じている中小企業の経営者・経理担当者は少なくありません。

法律名は知っている。
電子データを保存しなければいけない。
実務として「何を・どこまで・どのツールで・誰が運用するのか」まで整理できていない。

多くの企業は、ここで止まっています。

この記事では、電子帳簿保存法を細かく法律解説するのではなく、中小企業が実務で対応すべきポイントを整理します。特に重要なのは、メールやWebで受け取った請求書・領収書などの電子取引データを、電子データのまま保存することです。

対応の優先順位、社内ルールの作り方、ツール選定の考え方、税理士に確認すべき論点まで、実務目線で解説します。

電子帳簿保存法とは何か

電子帳簿保存法とは、帳簿や請求書、領収書などの国税関係書類を、電子データで保存するためのルールを定めた法律です。

中小企業が押さえるべき区分は、主に次の3つです。

区分内容対応義務
電子帳簿等保存会計ソフトなどで作成した帳簿・書類を電子保存する任意
スキャナ保存紙で受け取った請求書・領収書などをスキャンして保存する任意
電子取引データ保存メール・Web・クラウドサービス等で受け取った取引データを電子保存する義務

この中で、ほぼすべての事業者に関係するのが電子取引データ保存です。

たとえば、次のようなものが該当します。

電子取引の例 保存対象になるデータ
メールでPDF請求書を受け取った メール本文、PDF請求書
クラウドサービスの利用明細をWebから取得した 利用明細データ、請求書PDF
ECサイトで備品を購入した 領収書、注文確認データ
インターネットバンキングを利用した 取引明細データ
取引先とEDIで受発注している 注文書、納品書、請求データ

重要なのは、電子データで受け取ったものは、原則として電子データのまま保存する必要があるという点です。印刷して紙で保管するだけでは、原則として電子取引データ保存の対応としては不十分です。

まず確認すべきこと:自社の電子取引を洗い出す

最初に行うべきことは、ツール選定ではありません。
まず、自社でどのような電子取引が発生しているかを洗い出します。

以下の項目を確認してください。

チェック項目 該当有無
取引先からPDF請求書をメールで受け取っている
メール本文で注文内容・請求内容をやり取りしている
Amazonビジネス、楽天ビジネス等で領収書をダウンロードしている
SaaS、クラウドサービス、通信費などの請求書をWebから取得している
インターネットバンキングの明細を利用している
クレジットカード明細をWebで確認している
取引先ポータルから注文書・納品書をダウンロードしている
電子契約サービスを利用している

ひとつでも該当する場合、電子取引データ保存への対応が必要です。

ここで大切なのは、経理部門だけで判断しないことです。
請求書や領収書は、営業、総務、購買、現場担当者が受け取っているケースもあります。

そのため、電子取引の洗い出しは、次のような部門横断で行うのが現実的です。

部門 確認すべき取引
経理 請求書、領収書、支払明細
営業 見積書、注文書、契約書、請求関連メール
総務 備品購入、クラウドサービス、通信費
人事 社労士・求人媒体・研修サービス等の請求書
経営者 クレジットカード明細、サブスク契約、外部専門家への支払い

電子取引データ保存で満たすべき要件

電子取引データ保存では、大きく分けて次の2つの要件が求められます。

1つ目は、真実性の確保です。
これは、保存した電子データが改ざんされていないことを担保するための要件です。

2つ目は、可視性の確保です。
これは、保存した電子データを後から確認・検索・提示できる状態にしておくための要件です。

真実性の確保:改ざん防止の仕組みを作る

真実性の確保には、主に次のような対応方法があります。

対応方法 内容
タイムスタンプを付与する データが一定時点から改ざんされていないことを証明する
訂正・削除履歴が残るシステムを使う 誰が、いつ、何を変更したかを記録する
訂正・削除を防止する事務処理規程を整備する 社内ルールとして訂正・削除の制限や承認フローを定める

中小企業の場合、いきなり高機能なシステムを導入するのが難しいケースもあります。その場合は、国税庁が公開している事務処理規程のサンプルを参考に、社内ルールを整備する方法もあります。

ただし、規程を作るだけでは不十分です。
実際に、誰が、どこに、いつ保存するのかを運用として決める必要があります。

可視性の確保:後から探せる状態にする

可視性の確保では、保存した電子データを税務調査などの際に確認できる状態にしておく必要があります。

原則として、次のような検索性が求められます。

検索項目
日付 2026年4月30日
金額 110,000円
取引先 株式会社〇〇

ただし、ここで注意が必要です。

2024年1月以降の制度では、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者などについて、一定条件を満たす場合には検索機能の確保が不要とされる緩和措置があります。

つまり、すべての中小企業が必ず専用システムを導入しなければならないわけではありません。

たとえば、PDFファイル名を次のように統一する方法も実務上の選択肢になります。

20260430_株式会社〇〇_110000.pdf

このように、日付・取引先・金額が分かる形で保存し、取引先別または月別のフォルダに整理し、事務処理規程を備え付けることで対応できるケースもあります。

ただし、取引件数が多い企業では、ファイル名管理だけではすぐに限界が来ます。
月に数十件以上の請求書・領収書を扱う場合は、電帳法対応ツールの導入を検討した方が現実的です。

中小企業が整備すべき社内ルール

電子帳簿保存法への対応では、ツール導入だけでなく、社内ルールの整備が重要です。

最低限、次の内容を決めておく必要があります。

項目 決めるべき内容
保存対象 請求書、領収書、注文書、契約書、明細など
保存場所 会計ソフト、クラウドストレージ、電帳法対応ツールなど
保存担当者 経理、総務、各部門担当者など
保存期限 いつまでに保存するか
ファイル名ルール 日付・取引先・金額を含めるか
訂正・削除ルール 原則禁止、やむを得ない場合の承認フロー
税務調査時の対応 誰がデータを検索・提出するか

特に中小企業でよく起こる問題は、受け取った人のメールボックスにPDF請求書が残ったままになることです。

これでは、会社として一元管理できているとは言えません。

そのため、次のようなルールを決めると運用しやすくなります。

よくある課題 実務上の対策
請求書が各担当者のメールに散らばる 請求書受領専用メールアドレスを作る
PDF保存を忘れる 月次締め前に未保存チェックを行う
ファイル名がバラバラ 命名ルールを統一する
削除・差し替えの履歴が残らない 訂正削除の申請・承認ルールを作る
税務調査時に探せない 日付・取引先・金額で探せる状態にする

電子帳簿保存法対応ツールを選ぶポイント

電帳法対応ツールを選ぶ際は、単に「法対応」と書かれているかどうかだけで判断しない方がよいです。中小企業では、次の5つの観点で比較することが重要です。

1. 電子取引データを一元管理できるか

まず確認すべきなのは、請求書・領収書・契約書・明細などの電子データを一元管理できるかです。

メール添付、Webダウンロード、クラウドサービスの請求書など、保存元が分散している企業では、データの集約機能が重要になります。


2. 日付・金額・取引先で検索できるか

検索要件が緩和される事業者もありますが、実務上は検索機能がある方が圧倒的に便利です。

税務調査への対応だけでなく、社内で過去の請求書や領収書を探す時間も削減できます。

確認すべき検索項目は、最低限次の3つです。

検索項目必要性
日付月次・年度単位で探すため
金額支払額・請求額から探すため
取引先取引先別に確認するため

3. 訂正・削除履歴が残るか

電帳法対応を考えるうえで、訂正・削除履歴が残るかは重要です。

誰が、いつ、どのデータを登録・変更・削除したかが分かる仕組みがあれば、改ざん防止の観点でも運用しやすくなります。


4. 会計ソフトや請求システムと連携できるか

中小企業では、電帳法対応だけのために新しい業務を増やしてしまうと、現場に定着しません。

そのため、既存の会計ソフトや請求システムと連携できるかを確認する必要があります。

代表的には、次のようなツールとの連携を確認します。

種類
会計ソフトfreee、マネーフォワード クラウド、弥生会計など
請求書発行Misoca、board、楽楽明細など
経費精算楽楽精算、TOKIUM、マネーフォワード クラウド経費など
クラウドストレージGoogle Drive、OneDrive、Boxなど
業務基盤Zoho、kintone、Salesforceなど

5. 月額コストが運用規模に合っているか

中小企業では、初期費用よりも月額費用の継続負担が問題になります。

ツール選定では、次の観点で確認してください。

確認項目見るべきポイント
月額費用利用人数・保存件数で料金が変わるか
初期費用導入支援費用が必要か
保存容量書類件数が増えた場合に追加費用が出るか
利用人数経理以外の部門も使えるか
サポート法改正時の案内や設定支援があるか

安いツールを選んでも、運用が回らなければ意味がありません。
逆に、高機能すぎるツールを入れても、現場が使いこなせなければ定着しません。


パターン別:中小企業に合う対応方法

パターン1:取引件数が少ない小規模事業者

取引件数が少ない場合は、いきなり専用ツールを導入しなくても、ファイル名ルール・フォルダ管理・事務処理規程で対応できる可能性があります。

たとえば、次のような運用です。

項目運用例
ファイル名20260430_株式会社〇〇_110000.pdf
フォルダ2026年04月/取引先別
保存場所Google Drive、OneDriveなど
社内規程電子取引データの訂正・削除防止規程を作成
税務調査対応必要時にデータをダウンロード提出できる状態にする

ただし、クラウドストレージを使う場合でも、削除権限やアクセス権限の管理は必要です。


パターン2:すでにクラウド会計を使っている企業

freee、マネーフォワード クラウド、弥生会計などを使っている企業は、まず現在利用している会計ソフトの電帳法対応機能を確認してください。

新しいツールを追加する前に、既存の会計ソフト内で対応できる可能性があります。

確認すべきポイントは次の通りです。

確認項目内容
電子取引データ保存機能PDF請求書や領収書を保存できるか
検索機能日付・金額・取引先で検索できるか
証憑添付仕訳や取引データに証憑を紐づけられるか
権限管理担当者ごとに操作権限を分けられるか
出力対応税務調査時にデータ提出できるか

既存ツールで対応できるなら、導入コストや教育コストを抑えられます。


パターン3:紙書類が多い企業

紙の請求書・領収書が多い企業では、電子取引データ保存だけでなく、スキャナ保存も検討対象になります。

ただし、スキャナ保存は任意です。
紙で受け取った書類は、従来通り紙で保存することも可能です。

スキャナ保存を行う場合は、単にスキャンしてPDF化すればよいわけではありません。
解像度、カラー、タイムスタンプ、入力期限、検索性などの要件を確認する必要があります。

そのため、紙書類が多い企業では、スキャナ保存対応のツールや複合機連携を検討するとよいでしょう。


パターン4:Zohoなどのクラウド基盤を使っている企業

Zoho CRM、Zoho Books、Zoho Creatorなどを使っている企業では、電帳法対応を単独の保存業務として考えるのではなく、業務フロー全体で設計することが重要です。

たとえば、次のような設計が考えられます。

業務設計例
見積・受注Zoho CRMで商談・見積情報を管理
請求Zoho Booksや外部請求ツールで請求情報を管理
証憑保存電帳法対応ストレージや会計ソフトに保存
承認Zoho CreatorやZoho Flowで承認フローを設計
分析Zoho Analyticsで支払・請求状況を可視化

注意点として、Zoho単体で日本の電子帳簿保存法の全要件を満たせるかは、利用機能・契約プラン・保存方法によって変わります。

そのため、Zohoを使う場合は、業務フロー設計と電帳法対応ストレージ・会計ソフトの組み合わせで考えるのが現実的です。


対応しない場合のリスク

電子帳簿保存法への対応を後回しにすると、主に次のようなリスクがあります。

リスク内容
税務調査時にデータを提示できない必要な請求書・領収書を探せない
青色申告の承認取消しの対象になり得る違反の程度等を総合的に勘案して判断される
重加算税が加重される可能性電子取引データに関して隠蔽・仮装があった場合、10%加重の対象となる
経理業務が属人化する担当者しか保存場所が分からない
月次決算が遅れる証憑確認に時間がかかる

ここで大切なのは、過度に怖がることではありません。

青色申告の取消しは、違反があれば直ちに必ず行われるものではなく、違反の程度などを踏まえて判断されます。

また、重加算税10%加重は、電子取引データに関する隠蔽・仮装があった場合に関係する措置です。単なる運用ミスと、不正な改ざん・隠蔽は分けて考える必要があります。

とはいえ、「税務調査が来ないだろう」と考えて何もしないのは危険です。
最低限、電子取引データを保存し、後から提示できる状態にしておく必要があります。


税理士に確認すべきポイント

電子帳簿保存法への対応では、自社だけで判断せず、顧問税理士に確認した方がよい論点があります。

確認項目確認すべき理由
自社が検索要件の緩和対象になるか基準期間の売上高や保存体制によって判断が変わるため
事務処理規程の内容が適切かひな形のままでは自社業務に合わない場合があるため
紙保存と電子保存の使い分け紙書類・電子取引・スキャナ保存の整理が必要なため
既存会計ソフトで対応できるか追加ツールが不要な場合もあるため
2024年以降の猶予措置の適用可能性保存要件に沿った対応が難しい場合の確認が必要なため
インボイス制度との関係適格請求書の保存要件とも関係するため

特に、検索要件の緩和や猶予措置については、自己判断せず税理士に確認することをおすすめします。

電子帳簿保存法の対応、自社の場合はどうすればいい?

「義務範囲の確認から始めたい」「ツール選定を一緒に考えてほしい」というご相談を受け付けています。中小企業の経理DX支援の実績を持つ専門スタッフが、実務に合った対応方法を一緒に整理します。

無料で相談する

まとめ:中小企業はまず「電子取引データ保存」から対応する

電子帳簿保存法への対応で、中小企業が最初に取り組むべきなのは、電子取引データ保存です。

優先順位は次の通りです。

1
自社の電子取引を洗い出す
2
電子データの保存場所を決める
3
ファイル名・フォルダ・保存担当者のルールを決める
4
事務処理規程を整備する
5
必要に応じて電帳法対応ツールを導入する
6
紙書類が多い場合はスキャナ保存を検討する

電子帳簿保存法への対応は、完璧なシステムを一度に導入することではありません。

まずは、電子データで受け取った請求書・領収書・明細を、電子データのまま保存し、後から探せる状態にすること。
そのうえで、取引件数や社内体制に応じて、会計ソフトや電帳法対応ツールを活用することが現実的です。

タイトルとURLをコピーしました